心電図のしくみと波形:P波・QRS波・T波は何を表すか

心電図は何を記録しているのか。記録紙の見方と、P波・QRS波・T波がそれぞれ心臓のどの動きを表しているのかを、刺激伝導系と対応させて整理します。

投稿2026.10.12

心電図のしくみと波形:P波・QRS波・T波は何を表すか

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前の記事では、電気信号が「洞結節 → 心房 → 房室結節 → ヒス束 → 右脚・左脚 → プルキンエ線維 → 心室」の順に伝わることを整理しました。

この記事では、その電気の流れが、心電図の上でどんな波形になるのかを見ていきます。

心電図は何を記録しているか

心臓の筋肉(心筋)は、電気信号が届くと興奮し、そのあと収縮します。興奮が終わると、心筋は元の状態に戻ります。

  • 興奮する: 専門用語では「脱分極」といいます
  • 元の状態に戻る: 専門用語では「再分極」といいます

この記事では、必要に応じて「興奮(脱分極)」のように専門用語を併記します。

心電図は、この「興奮」と「元に戻る」ときに生じる電気の変化を、体の表面につけた電極で記録したものです。

記録紙の見方

心電図の記録紙の例(模式図)。マス目の上に、正常な心電図が3拍分記録されています。

心電図は、方眼紙のようなマス目のある紙に記録されます。

  • 横軸: 時間を表します。右へ進むほど、時間が進みます
  • 縦軸: 電気の大きさ(電位)を表します

記録紙には、細い線と太い線が引かれています。細い線で囲まれた小さい四角を「目盛り」、太い線で囲まれた大きい四角を「マス」といいます。1マスの中には、縦横5つずつ、あわせて25の目盛りがあります。

目盛りとマス(記録紙の一部を拡大した模式図)。赤で囲んだ大きい四角が1マス、黄色の小さい四角が1目盛りです。

標準的な設定では、目盛りとマスの大きさは次のようになっています。

  • 1目盛り(1mm): 横は0.04秒、縦は0.1mV
  • 1マス(5mm): 横は0.20秒、縦は0.5mV

縦の2マス(10mm)が、1mVにあたります。

波が上を向くか下を向くかは、電気の進む向きで決まります。興奮(脱分極)が電極に近づいてくるときは上向き、遠ざかるときは下向きに記録されます。

正常な心電図の波形

正常な心電図では、1拍ごとに、次のような波形が繰り返されます。

正常な心電図の1拍分(模式図)。横軸は時間、縦軸は電気の大きさです。実際の波形は、記録する場所(誘導)によって形が変わります。

波には、左から順にP・Q・R・S・Tという名前がついています。

P波:心房の興奮(脱分極)

最初に現れる、小さくなだらかな波です。洞結節で生まれた信号が心房に広がり、心房が興奮(脱分極)したことを表します。

PR間隔(PQ間隔):心房から心室へ伝わるまでの時間

P波の始まりから、QRS波の始まりまでの時間です。信号が心房を伝わり、房室結節を通って、心室に届くまでの時間にあたります。この時間は、QRS波がQ波から始まるとは限らないため、国際的にはPR間隔と呼ばれることが一般的です。日本ではPQ間隔とも呼ばれ、両者は同じ区間を指します。以降は「PR間隔」と書きます。

前の記事で出てきた、房室結節での「少しの遅れ」は、ここに含まれています。

正常では、0.12〜0.20秒(120〜200ミリ秒、3〜5目盛り分)です。

QRS波:心室の興奮(脱分極)

とがった大きな波です。信号がヒス束、右脚・左脚、プルキンエ線維を通って心室全体に広がり、心室が興奮(脱分極)したことを表します。

3つの波には、次の決まりで名前がついています。

  • Q波: QRS波のうち、R波より前に現れる下向きの波
  • R波: QRS波のうち、最初に現れる上向きの波
  • S波: R波のあとに現れる下向きの波

3つの波がすべて見えるとは限りませんが、まとめてQRS波と呼びます。

心室は心房よりも筋肉が多いので、QRS波はP波よりも大きくなります。また、プルキンエ線維が信号を速く伝えるので、QRS波の幅は狭くなります。

QRS波の幅は、通常0.08〜0.10秒程度(2〜2.5目盛り分)です。0.12秒未満(3目盛り分未満)であれば「狭いQRS」とされ、信号が心室へ速く伝わっていると考えられます。

0.10秒は、正常の典型的な上限値のひとつです。正常と異常を分ける絶対的な境界ではないので、境界付近の幅は、ほかの所見と合わせて判断します。幅が0.12秒以上に広がるときは、脚ブロック、心室から始まった興奮、高カリウム血症などの可能性を考えます。

STセグメント:QRS波の終わりからT波の始まりまで

QRS波の終わりから、T波の始まりまでの平らな部分です。「セグメント」は、波と波のあいだの区間という意味です。心室全体が興奮(脱分極)した状態が続いている時期にあたります。

正常では、基線(波のない平らな線)とほぼ同じ高さにあります。STセグメントが基線より上がる「ST上昇」や下がる「ST低下」は、心筋梗塞などで現れる重要な変化です。くわしくは別の記事で扱います。

T波:心室が元の状態に戻る(再分極)

QRS波のあとに現れる、なだらかな波です。興奮した心室が、元の状態に戻る(再分極する)ときの電気の変化を表します。

「近づくと上向き」は、興奮が広がるときの決まりです。元に戻る変化(再分極)では、この決まりが逆になり、近づくと下向きに記録されます。さらに、再分極は興奮とは逆に、心室の外側から内側へ(電極から遠ざかる向きに)進みます。この2つの「逆」が重なるため、T波は多くの場合、QRS波と同じ上向きに記録されます。

もう少しくわしく見てみます。心室の筋肉の細胞は、場所によって元に戻る早さが違います。心室の外側(心外膜側)の細胞は、内側(心内膜側)の細胞よりも活動電位が続く時間が短く、先に元の状態に戻ります。そのため、再分極は外側から内側へ進みます。一方、興奮(脱分極)は内側から外側へ広がります。進む向きは逆ですが、電気の変化の向きも逆なので、心室全体で見た電気の向きは、脱分極とおおむね同じ方向にそろいます。その結果、多くの正常な誘導で、T波はQRS波と同じ向きになります。ただし、すべての誘導で同じ向きになるわけではなく、誘導によってはQRS波と逆向きが正常なこともあります。

QT間隔:心室の興奮の始まりから、元に戻るまで

QRS波の始まりから、T波の終わりまでの時間です。心室が興奮(脱分極)を始めてから、元の状態に戻る(再分極する)までにあたります。

QT間隔は、心拍数によって長さが変わります(心拍数が速いと短く、遅いと長くなります)。そのため、臨床では心拍数で補正した「QTc(補正QT)」を使って評価します。

心房が元に戻るときの波はほとんど見えない

心房が元の状態に戻る(再分極する)ときにも、電気の変化は起きています。この波は「Ta波」と呼ばれます。ただ、電気の変化が小さく、大部分がQRS波やSTセグメントと重なるため、通常の心電図ではほとんど見えません。

刺激伝導系と波形を対応させる

前の記事の流れと、波形を並べてみます。

  • 洞結節で生まれた信号が心房筋に広がる(心房筋の興奮=脱分極) → P波
  • 信号が房室結節でゆっくり伝わり、ヒス束・右脚・左脚・プルキンエ線維を通る(電気が小さく、波としては現れない) → PR間隔の中(P波が終わったあとは、平らな部分として見える)
  • 信号が心室筋に広がる(心室筋の興奮=脱分極) → QRS波
  • 心室が元の状態に戻る(再分極) → T波

洞結節や刺激伝導系そのものを流れる電気はとても小さいため、体の表面の心電図には波として現れません。心電図に現れるのは、心房筋と心室筋の電気の変化です。

洞結節から始まる正常なリズムを「洞調律」といいます。洞調律で、心房から心室への伝わり方(房室伝導)も正常であれば、P波のあとに必ずQRS波が続き、それが一定のリズムで繰り返されます。このとき、信号が洞結節から正しい順番で伝わっていると、おおむね考えられます。

ただし、この関係は病気によって変わりえます。たとえば、房室ブロックではP波のあとにQRS波が続かないことがあります。心房細動では、P波そのものが見られなくなります。期外収縮(予定より早く出る興奮)では、タイミングの早い波が混ざります。

信号が本当に洞結節から始まっているかを確かめるには、P波の向きなども確認します。これは別の記事で扱います。

参考文献

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